自然体たらしというキャラクター ” モンパルナス

 

先日、この記事でいわゆる「薬研のかっこよさ」について言語化チャレンジをしました。
今回は、「薬研を描く(書く)事」をテーマでお話をします。といっても、「こうすればカッコイイ薬研が描けるよ」みたいなハウツー記事ではありません。それぞれの審神者の中にそれぞれの薬研の理想像があると思います。

✿薬研を描くのは難しい

個人的に、カップリングであろうとそうでなかろうと二次創作でキャラクターを深く描けるようになることを「仲良くなる」と呼んでます。
深く描く、というのは、「自分なりに『このキャラはこういうキャラだ!』という一貫性を見出して描くことができるか」が基準です。なので、途中でなんだか「当初に描いていたのと違うキャラになってきたぞ」となってきたら、仲良くなるのは失敗です。いったん中断して振り返らなくてはなりません。
もちろん、作品というのは自身を少なからず載せて描くものですから、自分の考え方が成長したりすることで、表現が変わっていくこともあるかと思います。そういった場合でも、そのキャラの根底にある自分の見出した一貫性があれば、成長しながらもベースに筋の通ったものを感じることができるはずです。

薬研は、そういう意味では「浅く仲良くなるのは簡単だけど、深く仲良くなるのは難しい」という印象です。

「キャラが難解だから描きにくい」のではないのです。むしろ、「どんなふうに描いても正解になりそうな気がする」から、難しいのです。
それは、上の記事でも書いた「薬研は何も否定しない」という性質がそうさせているのかな、と思いますが、とにかく一見広く見える間口が余計に表現を迷子にするというか、「これ!」という正解を導きだしにくくしている気がします。

✿石商先生(本家)の薬研の描かれ方

石商先生の描かれる薬研くんには、モノスゴイ一貫性を感じます。さすが本家。
基本的には微笑んでいて、その笑顔もいわゆる媚びたような感じが一切無くとってつけたようなさわやかさでもなく、自然な笑顔です。
そして、戦いのあるシーンでは真剣な表情をしています。

私が薬研の漫画を描くときに、一番大切にしているのが本家の薬研のイメージです。
表情集は、何となく印象が似ているので、石商先生のオリジナルキャラの表情集を参考にさせて頂いたりしました。

pixivなどで見られる石商先生ご自身の作品も、全体を通して清涼感のある作品ばかりなので、必然的に薬研にもその空気が備わっているのだろうと思います。石商先生の一貫性が薬研にも投影されている、という感じでしょうか。唯一無二の本家だからこそですね。

つぎは、メディアミックスされた薬研についてみていきます。


✿刀剣乱舞アニメにおける薬研の描かれ方

『花丸』の場合。

花丸でも、薬研くんの出番は比較的多くありましたが、個人的にはそれぞれ微妙にキャラが違うなあ、と思って観ていました。基本的には兄弟想いなんですが、いきなり鶯丸に「桜の字が上手く書けた」と無邪気に自慢してみたり、ホストの真似事をしてみたり、乱ちゃんをヒトデもって追い回してみたり、吉行を怪しい薬の実験台にしようとしてたり、結構無茶苦茶やってます。そうかと思うと、「柄まで通ったぞ」の新パターンを披露したり、最終話ではサービスカットをいきなり投入したりと、「カッコイイ」部分も網羅して、最後まで全力でエンターテイメントに走ってくれていた感じがします。
「カッコイイ」と「可愛い」と「医療系のちょっと変なキャラ」を同時にやろうとしていたのでしょうか。むちゃしやがって!結果、「視聴者の見たいであろう薬研を全部やってくれようとしていたのだろう」と私の中では納得してました。

『活撃』の場合。

オトメディア夏号の対談で、活撃の薬研担当の新里さんが『その時々で見せる表情が違う』というようなことを書かれていました。
実際、最初に発表された立ち絵と、現在のサイトに使用されているキービジュアルは、雰囲気を変えて描かれているそうです。
活撃の薬研くんは、今までの薬研くんになかったオプションが追加されています。
『冷静沈着で任務に忠実な性格』というキャラクター付けです。まだこの記事を書いている段階では放送が始まっていないので具体的なことはわかりませんが、ストーリーの展開と審神者の性格上必要なキャラ付けなのかな、と思います。活撃ではこれが薬研のベースになっていくのでしょう。
新里さんは他にも「男前だけど溢れ出る色気を感じる」ということも仰っていたので期待せずにいられません。


✿二次創作における薬研の描かれ方

実を言いますと、薬研を描くのはとても難しく、ただでさえ影響をうけやすいので自分の描く薬研観の純度を高めるために、二次創作をしている手前私は他の方の薬研の二次創作をほぼ拝見していません。TwitterのTLに流れて来る作品や、他の刀剣男士がメインで脇役として登場する作品はそこそこ数を見たかな?というくらいのあやしいもんですが、そこから受ける印象のお話です。薬研のカップリングとなるとまた違うかもしれませんが、そちらはほぼ拝見することがないので、除外した状態とさせて頂きます(すみません)。

・基本的にひどい扱いはされない。苦労もしない。
→とうらぶのギャグ漫画でも、散々な目に遭いがちなキャラと遭わないキャラがいますが、薬研は主に後者です。

・おちょくられることもあまりない。
→ステ値ワースト2という事実とか、割といじられてもいいようなものですが、パンチが紙とか防御が紙とか見たことありません。

・かっこよくボケをキメる。
→それまで他のキャラがかましてきた連ボケを畳み掛けるように一番の山場ボケを持っていくタイプ。あくまで、かっこよく。逆に、ツッコミ役になることはあまりない。

・相談役になることもある。
→主に、原因不明で刀剣男士の誰かが体調を崩した場合。

・スパダリ風に描かれることもある。
→料理とかお手の物!燭台切とセットでこうなっていることが多い。

 

総合的な印象だと、「一目置かれやすい」という感じです。
ジョジョ5部の、護衛チームに入団したばかりのジョルノを見るブチャラティのような気持ちです(伝わって)。「こいつには何か人を認めさせる才能のようなものがあるらしい」というやつです。余談ですが、ジョルノも二次創作のギャグでは扱いが割と薬研と似ています。

ジョルノといえば、「恥知らずのパープル・ヘイズ」というスピンオフ小説で、このような表現をされていました。
「あまりに器が大きいので、向かい合うと自分自身を投影してしまう」

多からず少なからず、薬研にもこれが当てはまるような気がします。
本人はぜったいに語らない一貫性が本当はあるんだけど、その許容性の高さからある程度の表現は許されてしまう、という感じでしょうか。


✿まとめ。薬研を描くことについて

二次創作者としてはこの「本人がぜったいに語らない一貫性」を追求してしまいたい、というのが性です。
ただ、それを作品で伝えるのはひどく難しいので、一番最初に「深く仲良くなるのは難しい」と述べました。
おそらく、そこに辿り着くには、薬研のことを考えて考えて考え抜いて、自分自身に問いかけなければならない部分がとても大きいと思うのです。
上の記事で書いた男前さなどは刀そのもので言えば地金の美しさであり、辿り着きたいのは芯鉄の部分なのですから、「この俺が折れたかよ」と嘯くくらいの硬度を誇る彼の芯鉄に到達するのはきっと難しいことと思います。(吉光さんの時代の作刀に芯鉄がない説はこっちに置いときます笑)

実を言うと、私自身は最終的にそこに辿り着けなくてもいいような気がしています。辿り着こうとする過程にも得るものは多いからです。これまで何冊かの同人誌を発行してきて、その間にたくさんのことがあって、苦しくもあったけどとても楽しい期間だったからです。

昨年の夏コミで、こんなことがありました。
スペースの前でちょっと悩まれていた男性の買い手さんの方が、「予算オーバーしていたけど気になったので」とギャグ本とバトル本を含め全種類を買って下さいました。
そして、「上手くいえないけれども描かれている薬研に一貫性がある」と言ってくれたのです。とても心に残りました。

私が描いているアニキたちにも、言葉にできない一貫性を感じて下さる方がいるようです。
ただ困ったことに、私自身がそれがどういうものなのか、まだ言語化することができません。こんな簡単に答えに辿り着かせてくれない薬研を好きになって、ほんとうによかったです。刀剣乱舞での活動を終えるまでにそれができるのかわかりませんが、今は「自分の思う薬研」をどこまでも追いかけて、それを作品に替えていけたらと思います。
この文章を最後まで読んで下さった方にも、このテキストが創作や考察の刺激になってくれたら嬉しいです。