「いやあ大変でしたよ、対して思い入れのない組員の死因調査とかただでさえやる気も出ないのに、癒しの昼食タイムでは娘を失った花屋の親父の重い話聞かされるわ、流れ上捨ておけない空気の中仕事は増えちまうわ、変な石に追いかけられてマンション壁面逆ボルダリングする羽目になるわ・・・それでローン組んで買った車は大破でしょ?もう、やってられませんよ。死んでいきますよね、心が、ゆっくりと」

と、パッショーネ幹部候補(予定)の男性(20)は語る。
「ギャングの仕事」と聞けば我々一般人は、カジノを取り仕切ったり、商店から回護料金という名のショバ代を得たり、他のチームと争ったり…等、金と暴力にまみれている日常を想像してしまう。
しかし現実は、さまざまな調査のために足を使って街中を駆け回る。かなり地味な仕事も多く、ストレスで心がゆっくりと死んでいく者も少なくないという。

男性(20)に依頼されたこの日の仕事は組員の死因調査だった。
車があればまだ容易な仕事であったが大破してしまったため、公共交通機関を使わざるを得ない。組員が倒れていた現場は空港だったので市内から空港までは1時間に2本しかないバスで45分かけて向かうしかないのである。

「いや、まあ外面は良いですよ…一応、ギャングとはいえ市民ですから。市民あってのギャングですしね。なので情報料なしで聞けちゃうわけです、色々と。空港の係員から近頃目立つ白タクがあると聞いた時に、思っちゃったんですよ。よくわからんがこいつにしとくか、って」

白タクとは、国や市の認可を受けずに自家用車でタクシー業務を行う違法な行為である。
男性(20)は再び空港からバスで45分かけて市内中心部まで戻る。途中で分かったことだが白タクの運転手である少年(15)は途中で車を乗り捨てて逃げ去ってしまったようだ。
ネアポリスの人口は120万人である。その中でどうやって彼は名前と外見情報のみで少年(15)にたどり着いたのだろうか。

「それは…だがそれは…『運命』というものだと思ってますね。よくわからんが会えてしまいました。見た瞬間にすぐこいつだ、とわかりましたよ」

そして男性(20)は少年(15)に事件についての質問をする。
その際、なぜ顔を舐める必要があったのかと尋ねてみた。

「やってられませんよね、頬でも舐めないと。歯は一本失いましたが、得るものがありましたよ」


何があったのかの詳細を彼が語ることはなかったが、ストレスで死にそうだと語っていた彼の目には確かな生の輝きがあった。


(※このテキストは全てフィクションに決まっています。実在・架空の人物に関係あるはずもありません)